「ガラスの仮面キャバ」


登場人物紹介。

桜小路ベル。

劇団「月欠(つきかけ)」に所属する2枚目俳優。ニックネームは「王子」。
天才演劇少女、北島タミに憧れ劇団入りする。現在片想い中。
育ちのいいお坊ちゃまで少々マザコン気味。意外とジジくさい一面を持つ。

北島タミ。

天才演劇少女。生まれは貧しいが食欲は旺盛。
セリフは一度聞けば覚えてしまう演劇の才能と
一度嗅いだ匂いは忘れないというどうでもいい特技を併せ持つ。
紫のバラを届けてくれる謎の人物に夢中。


姫川シュガー。
北島タミのライバル。一本気な性格のお嬢さま。でも出番少なし(笑)

「タミ・・・・恐ろしい子・・・・!!」


「やいやいやいやいっ!!!
しらばっくれてもこの桜吹雪とお天道様がお見通しだ。
市中引き綱で散歩の刑に処する。これにて一件落着ー!!!」

彼の名前は桜小路ベル。劇団「月欠(つきかけ)」の若手俳優である。
その育ちの良さそうな柔らかい物腰と端正なマスクから
王子やお殿様を演じることが多く劇団仲間やファンから王子と呼ばれている。


「はーしんど。時代劇は立ち回りが多くて疲れるよ。
先月の王子様役は楽だったな。あー腰が痛い。」
さっきまで威勢よく遠山の金さんを演じていたベルはジジくさく座り込んだ。



ベルが控え室で一人くつろいでいると、ノックもなしにいきなりドアが開いた。
入ってきたのは同じ劇団の看板女優の北島タミである。
タミ「王子、お疲れー!今日も素敵だったわよー!!」

ベル「うわっ!タ、タミさん・・・・!?」
タミ「ファンの人からお花や差し入れ預かってきたの。ほら、すごいでしょ!?」
ベル「うっ。か・・・かたじけないっ!」
タミ「ぷーっ!!やだもう王子ったらまだ時代劇モードのままなの?あははは!!」
タミは大阪のオバチャンのようにベルの背中をパンパンと叩く。


タミ「ねえそれより聞いて、また今日も楽屋に例のお花が届いたのよ。」
ベル「紫のバラの人からですか・・・?」
タミ「そうなの。カードが入ってたわ。永遠(とわ)に変わらぬあなたのファンよりって。」

「まだ会ったこともないし名前も知らないけど、一体どんな方なのかしら・・・。
たぶん眉毛も凛々しいハンサムな、私より年上の男性だと思うわ♪」
北島タミは夢見るようにうっとりとつぶやいた。

↓タミが思い描く「紫のバラの人」のイメージ。

タミが部屋を出て行った後、ファンからの差し入れに埋もれながら
ベルは大きなため息をついた。

「はあああ。ダメだなあ僕って。せっかく憧れのタミさんと同じ劇団に入って
共演できるまでになったのにろくに目を合わせてしゃべることもできない。
お芝居のラブシーンなら平気なのに。
タミさんは紫のバラの人に夢中だし。あれを贈ってるのは僕なのに・・・・。
このままじゃタミさんを紫のバラの人に取られてしまう・・・
あ、いいのか、それは僕なんだから。
いやダメだ、僕はタミさんより年下だし眉毛も凛々しいどころか下がってる。
どうしたらいいんだろう・・・・・。このままじゃ演技にも身が入らない・・・。

よしっ!!僕も男だ、思い切ってタミさんに気持ちを打ち明けよう。
今度の夏祭りにタミさんを誘って、告白するんだ・・・!!!」

思い切ってタミを夏祭りデートに誘ったベルは意外にもすぐOKをもらえた。
前日に美容院でシャンプー・トリミング・爪切り・肛門絞りをすませ
全身ピカピカに磨きあげママの選んでくれた浴衣を身につけた桜小路ベルは
さすが2枚目舞台役者だけありみごとな着こなしで、通り過ぎる人皆が振り返る。
北島タミへの告白はみずから脚本を書き何度も練習し準備は万端だった。
待ち合わせ時間30分前に着いたベルだったがすでにタミが来て待っていた。

タミ「あ、ベル王子、ここよー!!」
にこやかに手を振り近づいてきたタミだったがそばに来たとたんに顔色が変わった。

タミ「ベル王子・・・・あなた、まさか・・・・?」
ベル「(え?もしかしてバレたんだろうか、僕が紫のバラの人だって・・・)」

タミ「鼻毛が出てるわよ!!」

ベル「えええーーーーっ!!??」

タミの手鏡を借りて鼻の下を見ると、鼻毛は何本も外に飛び出していた。
それだけではない。その中には白いものまで数本混ざっていたのだ。
ベル「そ・・・・そんな・・・僕、まだ若いのに・・・!!!」
ベルはがっくりとひざをついた。
「終わった・・・僕の恋も役者生命も・・・・なにもかも・・・・。
このひらひらと風に舞う鼻毛でどんな甘い言葉を吐いてもお笑いになるだけだ。
くそっ。ママのアホボケカスー!!どうして鼻毛に気づいてくれなかったんだ!」
なまじ全身きれいにシャンプーした後だけに鼻毛はキラキラと輝いて光っている。

ベル「こ、こんな鼻毛なんて、えいえいっ!!」
乱暴に手で引き抜こうとするベルをタミが止める。
タミ「何するの、やめてやめて、血が出てるじゃないの!!」
ベルの鼻から落ちた赤い血をタミが白いハンカチでそっとぬぐう。
ベルはもうヤケになるしかなかった。

「行こう、タミさん!!」ベルはタミの腕を強引に掴んで走り出した。
ベルは夜店を全部回って金魚をすくいまくりヨーヨーを釣りまくり
唐辛子を買い占めお面をかぶり壇上で踊りカラオケ大会で優勝までした。
やがて夜もとっぷりと暮れ、ベルはタミを自宅近くまで送った。
タミ「今日はどうもありがとう。とても楽しかったわ。」
ベル「それじゃ・・・さよなら・・・。」
帰ろうとするベルの背中にタミがぽつりとつぶやいた。

タミ「やっぱりあなただったのね・・・紫のバラの人・・・・。」
ベル「えっ!?」

「この前もらった花束のカードの中に鼻毛が1本落ちていたの。
つやつやと輝くきれいなキューティクルの毛だったわ。
私、あれを見てこの人はきっといいお育ちの男性に違いないと思ったの。
まさかそれがあなただとはそのとき思わなかったけど。
私が1回嗅いだ匂いは絶対忘れないって知ってるでしょ?
今日、王子の鼻を拭いたハンカチの匂いでようやく気づいたの。
まさかあなただったなんて・・・・・。」

タミはもともとベルが入団したときから彼に好意を持っていた。
しかしいつまでたってもよそよそしく心を開いてくれないベルの気を引こうと
紫のバラの男性に夢中のふりをし続けてきたのである。
さすがに北島タミのほうが役者が数段上であった。

タミ「女はいつもガラスの仮面をつけて自分を演じる生まれながらの女優なのよ。」


ひそかにベル王子をねらっていたライバルの姫川シュガーは悔しさに唇を噛んだ。
彼女もまたタミの芝居にすっかりだまされたいたのである。


シュガー「タミ・・・恐ろしい子・・・こうなったら紅天井の役は絶対に渡さない!」


ベルと結婚し出産を経験したタミはブクブクと太っていった。
可憐なヒロイン役を卒業したタミは脇役・お笑い・汚れ役・悪役など
何でもこなすようになりどんどん芸の幅を広げていった。
中でもベル王子の鼻毛にヒントを得た天才タミゴンのパパ役は彼女の当り役となり
特に関西では人気が高く客席は常に満席だった。

タミ「ゴンゴン タミゴン タミゴンゴン♪」


複雑な心境のベル王子。

彼は(鼻毛に気をつけながら)終生2枚目の役を演じてゆくことを決めたという。

めでたしめでたし。


この物語は有名な某マンガ「ガラスの仮面」とは全く何の関係もありません。

「そこんとこよろしくね!」(巨匠おんぷ監督)